両親を殺害した犯人が、唯一血縁として頼っていた叔父だったとは
それを知って、取り乱した気持ちで結婚した相手が、自分の体だけを求めていたとは
しかし若年性認知症になり、徐々に記憶が薄れる中、家政婦だったたづ一家や、その娘の忘れ形見で養子にした律や、ピアノとともに過ごしたよい想いが残されていく
そこに哀れんだ神がテをさしのべたと思われなくもない
昭和のにおいを濃く残す、物語展開や筆致が、逆に目新しく感じないこともない
聾唖の両親と兄 子どもの頃から通訳として育ったルビー
思いがけず歌の才能を見いだされるが、自分も家族も半信半疑
例に漏れずマイルズへの好意から歌の練習を続けようとするが、家族の仕事の通訳としての手伝いから解放されない
歌をあきらめようとするが、家族の理解を得て・・
ルビー役のエミリア・ジョーンズの歌唱力に圧倒される
実はマイルズ役のピーロは七歳からソプラノ歌手として活動中だと
互いの家族を思う気持ちの強さが伝わり、晴れやかな気持ちになった
さまざまな媒体に書いたエッセイのコンピレーションとのこと
目次の表題からして大きな問題提起というか挑戦的
「第一章 矛盾に目をつぶる日本人」「私たちは歴史から何も学ばない」
日本では:熟議するというのは要するに時間をかけるということ
そのうち想定外のことが起きて、たちまち問題解決
理路整然と正論を述べて、論破するようなやり方は好まれなかった
確かに
医療、教育、行政のような「社会的共通資本(それなしでは人間が集団として生きてゆくことのできない制度)」を株式会社化してはいけない
専門家によって、専門的知見に基づいて、定常的に管理運営されるべきもの
筆者はあとがきで、現代日本で政治について語ると暗くなると
中央年齢 日本が世界一 (豊かで安全だが、子どもが生まれない国)
他に高い国は、第二次世界大戦敗戦国 戦後しばらくしてから子どもが生まれなくなった
戦中派は「敗けてよかった」が実感 戦争で死ぬ、政府に弾圧されるの恐怖から解放された
戦後派にとって、敗戦は「経験の欠如」という経験
どうして敗けたのか、どうして「こんな国」になったのか説明されないまま、敗戦国民として道義的責任、政治的責任だけは「時効なし」で負わされる
なのでとりうるスタンスは、責任を引き受け謝り続けること(政治的に正しい)か戦争責任をまるごと放棄する(政治的に正しくない)(歴史修正主義者の中に戦争経験者はいない)のどちらかになってしまい、暗さが残される
ネトウヨの台頭
「人は誰も平等であるべき」だが「その理想を実現するためには『自分には他の人よりも多くの責務がある』という自覚を持つ人間が要る」
「貴賤の差のない世界を実現するためには『ノブレス・オブリージュ(高貴であることの責務)を感じる人が要る」
逢坂冬馬
憎し
みから復讐しようと、狙撃兵となっ頃更田たセラフィマ
しかし殺された母や村人たちを焼いたのは、疫病予防だった
そしておそらく、女性狙撃兵として苦悩の中で生きてきた教官イリーナも、自分と同じような、悪意の目で見られる体験をしてきたのだということを知ったのだろう
結局戦争という異常な世界で、それに適合するように仕向けられていったのだ
終戦後の生き方がどうなのかが問われている
「普通の少年や少女たちを、まるで別人の戦士のように仕上げる何か」
「それが狙撃兵という兵科であるのか、あるいは何か別のものであるのかは、結局わからなかった」
一方殺しも殺されもしない、治す道を選んだターニャ
「自らの家族を殺され、敵を憎まず、それどころか治療する生き方が、狙撃兵としての生き方よりたやすいなどと、誰が言えるだろう」医療者としての生き方が問われる