読書:白鳥とコウモリ

東野圭吾

白鳥とコウモリが一緒に飛ぶような

久々の、東野圭吾の殺人事件の小説の真骨頂

単なる謎解きでなく、動機解明の過程で、関係者の心理描写がリアルで見事

加害者家族が被害者家族に変わる、あるいはその逆

どっちにしても家族にとっては身に覚えのない的外れな非難

それが許されるおかしなSNSの世界

そしてそれに関連してか、殺人に興味を抱く少年

どんな未来を残してあげたらいいのか

 

ただ和真と美令との終わり方に救われた

読書:室町は今日もハードボイルド

清水克之

上品ぽい現代日本人も、中世からの罵詈雑言を引き継いでいる

士農工商は偉い純に並べたものではない 「あらゆる職業の人」という意味の中国古典由来

百姓は天皇の王孫 侍は主人のそばに控えて冷たい板敷をただ温めるしか能がない

今では「勤め人」

鎌倉時代は調停と幕府が国を支配していたが、現実社会派容積、距離、通過換算など地域ごとにばらばらで、まったくアナーキーな実態だった

落書き 鎌倉時代に遡る

参詣者にとっては、参拝の事実を後世に記しとどめ、自身の願い事が仏神に届くことを祈った

落書きへへ込められた、先祖の素朴な願い、外国での寛容さ

異文化を学ぶ高揚の一つは、自分たちと異なる価値観への寛容

虹の立つところに市を立てるのが風習

信仰と呪術が「中世」を彩る一つの特徴

中世から近世にかけての変化は、呪術から合理主義への変化

室町から戦国時代の人々は神仏への懐疑の念を抱いてしまった

それは戦争を不運の一つとして受け入れるしかなかった時に、既存の宗教が人々を救済しない事に気付いてきた そしてキリスト教一向宗が隆盛したり、合理的な思考へすすむ

読書:幸村を討て

今村翔吾

真田の家を守りつつ、後世まで真田の名を轟かせる

それに賭けた幸村と信之の壮大な夢が、大坂の陣に関わる武将達の生き様と重なって描かれている

幸村を討てをキーワードにして、最後は家康自身が発してしまったことで、戦後の真田家との戦にも又負けてしまった

家康、正信と対峙する信之 その緊張のやりとりが、用意周到な策の巧みさを引き立てている

読書:コロナと潜水服

奥田英朗

オカルトとも言えないが、主人公の心象を反映するかのような、人や物が、主人公を導いてくれる

それはあたかも、心の底で思っていても、実行できないことを、後押ししてくれているようだ

そのことで、新たな人生の一歩を踏み出せる

そういうすてきな霊に会ってみたいものだ

読書:52ヘルツのクジラたち

町田そのこ

母子家庭で虐待を受けて、心が死んでしまった者達

まるで他の仲間には聞こえない、52ヘルツの声でなくクジラのよう

昔祖母が住んでいた田舎に逃げてきたキナコ

彼女を救ったのも、傷を負う者達だった

くらく切ない物語だが、これから苦難が待ち受けているとは思うが、最後に愛くんを思い希望が持てる結末だった

読書:沈黙の町で

奥田英朗

中学生の転落死 事件か事故か

中学生の生活や友だち関係などを描写しながら、事件解明に迫ってゆく

子ども達の揺れる心の動き 友人がすべてであるかの生活

その中で親、教師、警察、検察が一人一人と向き合う中で、やっと真相が見えてくる

その過程では、学校でも警察でも縦割り社会の弊害もうかがわせる

謎解きより、大人にはまだなれない中学生という、難しい年代特有の人間関係の複雑で、大人には理解しがたい生態の描写が優れている